骨粗鬆症の背景にみられる病態 1
骨粗鬆症は、長期間に及ぶカルシウム、ビタミンDの不足によるカルシウム代謝異常を中心に生じてくる病気です。体内のカルシウムが不足すると骨に含まれるカルシウムが溶け出て、組織内や細胞内に移動するため、長い間には、各器官にカルシウムが蓄積し機能障害が進行します。その結果、動脈硬化、高血圧、心臓病、糖尿病などの生活習慣病や免疫異常、ガンになりやすいとわれています。
そこで、骨粗鬆症患者を対象に、生活習慣病、免疫異常、ガンなど背景にみられる病態について検討した結果を報告します。
調査の対象と方法
検討の対象は、(財)光線研究所付属診療所を受診した骨粗鬆症の女性患者20例(骨粗鬆症群)に、問診で既往歴、生活習慣病の有無、病状を聴取し、体重、身長、※加速度脈波を測定。
※加速度脈波:血管および血行状態を表す指標となるもの
骨粗鬆症は、年齢や性別による影響が大きいのでこの調査では、60歳代の女性に限定して検討、同年代の骨粗鬆症と診断されていない女性患者20例を対象群とし、統計処理を行い検討しました。数値は平均値±標準誤差で行いました。
検討結果
●年齢
年齢の平均は、骨粗鬆症群は64.8±0.6歳、対照群64.3±0.6歳で、両群間に明らかな年齢差はありませんでした。
●身長
身長の平均は、骨粗鬆症群は151.0±1.0㎝、対照群は151.8±1.3㎝で、両群間に明らかな身長差はありませんでした。
●体重、肥満指数
体重の平均は、骨粗鬆症群は46.0±1.4kg、対象群は51.5kg±1.4kgでした。骨粗鬆症群は対照群より体重は軽く、肥満指数も少ないという結果でした。
●血圧
最高血圧の平均は、骨粗鬆症群では116.5±2.6mmHg、対象群では109.7±2.7 mmHg、 骨粗鬆症群は対照群に比べ、明らかに血圧が高いという結果でした。
最低血圧の平均は、骨粗鬆症群では68.8±1.9mmHg、対照群72.4±2.5mmHgで、両群間に明らかな差はありませんでした。
●背景にみられる病態
高血圧、心臓病の合併は、骨粗鬆症群では各5例(25%)にみられたのに対して、対照群では各2例(10%)。糖尿病は骨粗鬆症群でのみ3例(15%)にみられました。そのほかに、骨粗鬆症群では一過性脳虚血発作の既往歴が1例(5%)、甲状腺の手術を受けている例が2例(10%)、ガンの手術を受けている例が3例(15%)みられました。
また、耳鳴りを訴える例、胃下垂の例が骨粗鬆症群では各4例(20%)にみられたのに対して、対象群では各2例(10%)でした。
検討結果の考察
この調査から、加速度脈波で測定した血行状態は、骨粗鬆症群では、対象群の血行状態に比べて明らかに悪いことが判明しました。この血行不良はカルシウム代謝異常による動脈硬化と高血圧、心臓病などが関与していると考えられます。この調査でも、骨粗鬆症群は高血圧、心臓病、糖尿病などの生活習慣病をともなう例が多いという結果でした。
骨粗鬆症群は、高血圧、心臓病の合併が多かったことから、血圧の平均値がかなり高いと予想されましたが、両群間の血圧値に大きな違いは見られませんでした。これは、骨粗鬆症患者には降圧剤や心臓病の薬剤を服用している例が多かったためと思われます。
しかし、骨粗鬆症群患者は、薬剤の服用によって降圧しても最高血圧は対象群より高く、血行不良も強かったことは注目に値します。これは、骨粗鬆症患者の血行不良は、薬剤のみでは十分に改善できないことを意味していると考えられます。また、血行不良は、耳鳴りが多かったことからも推測できます。
●骨粗鬆症の危険因子
この調査では、骨粗鬆症群は対照群に比べて体重が軽く、婦人科の手術や甲状腺、胃などの手術を受けている例が多いという結果が出ました。
これらはすべて、骨粗鬆症の危険因子といわれているものです。体重が軽いということは骨量が少ないことを意味し、骨粗鬆症になりやすいことを示唆していると考えられます。また、婦人科、甲状腺の手術による女性ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌低下は、骨に大きな影響を与えます。
以上のように、カルシウムの摂取量不足やビタミンDの欠乏(光線不足)は、単に骨粗鬆症を起こすだけではありません。骨から徐々に溶け出したカルシウムは、組織内や細胞内に移動するため、長い間には各器官の機能障害が進行し、その結果、動脈硬化、高血圧、心臓病、糖尿病などの生活習慣病や免疫異常、ガンなどの病気が、骨粗鬆症の背景にみられるようになります。
(財)光線研究所「可視総合光線療法・理論と治験」黒田一明著