高齢者の肺炎 1
高齢者の肺炎の特徴は、症状(寒け、高熱、咳、痰、胸痛など)が出にくいことです。したがって、手を施すのが遅れて重篤な肺炎になることが少なくありません。
嚥下性肺炎の原因
65歳以上の高齢者に生じる肺炎の約3分の1は、嚥下性肺炎です。嚥下性肺炎は、脳卒中で倒れたときや昏睡状態のとき、また脳卒中後遺症、慢性関節リウマチ、骨折、認知症などで寝たきり状態になったときに、食物や胃液、唾液、病原菌を含む痰などが誤って気管に入り、それがもとで肺炎を起こすものです。
高齢者に嚥下性肺炎が起こりやすい原因といして、次のようなことがあげられます。
1)免疫機能の低下
口腔内の細菌の数を調べた研究では、健康な成人や健康な高齢者と比べ、寝たきりの高齢者ではその数がかなり多いという結果が認められています。これは日常生活の活動性の低下で、口腔内細菌を誤飲して嚥下性肺炎を起こしやすいことを示しています。さらに、高齢者では、免疫をつかさどる胸腺が委縮してきますので、免疫担当細胞が減少し、感染に対する抵抗力が低下すると考えられます。
2)嚥下反射の低下
飲食物が喉に入ると反射的に飲み込もうとする運動が起こります。このとき飲食物が気管に入らないように気管入口の蓋である口蓋が上がります。また、飲食物の鼻への逆流を防ぐために鼻咽頭も閉じられます。これによって飲食物は喉から食道を下って胃に流れることができます。この反射を嚥下反射といいます。
誤飲を生じないためには、この嚥下反射が正常でなければなりませんが、脳卒中や認知症の症状があると嚥下反射は低下し誤飲を生じやすくなります。また、健康な人でも精神安定剤を投与すると、嚥下反射は低下することが証明され、このことは嚥下反射を正常に保つためには意識状態が重要であることを示しています。
3)咳反射の低下
気管に飲食物や分泌物、異物が入るとそれを排出するために咳き込みます。この気管防御として働く生理的な反応を咳反射といいます。
誤飲があっても、咳反射が正常であれば問題はありません。しかし、咳反射は年をとるとともに低下するといわれ、65歳以上の高齢者では、約半数に誤飲が生じているという報告があります。また、意識がもうろうとしている人は、咳反射の反応が鈍いといわれています。したがって、認知症症状の進行とともに誤飲の危険はますます多くなることになります。
4)気道の粘膜線毛機能の低下
気道粘膜には、杯細胞から出る粘液と繊毛運動によって異物を排除する防御機構があります。この機能は、年をとるとともに低下することが知られていますが、認知症症状によってさらに低下することが考えられます。
5)食道運動機能の低下
噴門(胃の入口)括約筋の機能障害による逆流性食道炎や食道裂肛ヘルニアなどにより胸やけの症状が出ますが、このような胃液の食道内逆流を生じる人では、胃液が気管に誤飲されて嚥下性肺炎を起こしやすくなります。
※ 食道裂肛ヘルニア :胸とお腹を隔てる横隔膜の「食道裂孔」と呼ばれる穴から胃の一部が胸の方に飛び出す病気
6)認知症症状を生じやすい薬剤
認知症状態を防ぐことが誤飲の防止には極めてじゅうようであることは前述しました。高齢者では、生活習慣病などで種々の薬剤が投与されることが多く、中には薬剤による脳機能の抑制により眠けや認知症症状が強くなり、嚥下性肺炎を引き起こすことが多くなります。認知症症状を生じやすい薬剤には、トランキライザー、抗不整脈剤、降圧剤、鎮咳剤、抗痙攣剤などがあります。
7)認知症症状を生じやすい状態
脱水症状では、脳循環が低下し、認知症症状が出やすくなります。一般的に、高齢者は食欲不振によって脱水状態になりやすいので、嚥下性肺炎を併発する危険も大きいといえます。また、アルコール摂取後の泥酔による誤飲もあり、特に嘔吐をともなうときは十分な注意が必要となります。
(財)光線研究所「可視総合光線療法・理論と治験」黒田一明著