他疾患に合併する胃潰瘍 2
他疾患にともなう胃潰瘍 2
1)脳血管障害にともなう胃潰瘍
脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血による胃病変の発生には、自律神経の中枢である視床下部の障害が主な原因と考えられています。虚血性障害によって交感神経の機能が高まり、その結果胃粘膜の血液循環が減少して胃潰瘍が発生します。
2)虚血性心疾患にともなう胃潰瘍
胃潰瘍は、心筋梗塞症に合併することが多く、心筋梗塞による全身の血液循環異常が胃粘膜の微小血液循環にも影響を与え、胃粘膜の酸素不足をきたして胃潰瘍が発生します。
3)呼吸器疾患にともなう胃潰瘍
肺気腫や気管支喘息などの疾患では、血液の酸素濃度が低下します。この低下は粘膜防御作用のあるプロスタグランジンという物質を減少させます。その結果胃粘膜の血流が低下して、胃潰瘍が発生します。
※肺気腫:肺の構造が壊れることで空気がたまってしまい(気腫)、うまく息を吐けなくなってしまう病気。 少しの歩行でも息苦しくなり、ちょっとした動作にも支障をきたすようになる。 原因の多くは喫煙。
4)高血圧にともなう胃潰瘍
血圧の高い状態では胃潰瘍はまれですが、降圧剤によって血圧が下がると胃潰瘍の発生は多くなります。これには血圧が下がったことによる胃粘膜血流の減少が関連しています。高血圧症における降圧療法と胃潰瘍発生について、横浜市大病院の水野先生らのグループが興味ある研究を報告しています。
●上腹部症状を訴えて内視鏡検査で胃潰瘍と診断された患者と異常がなかった正常者を対象に血圧値をみると、胃潰瘍患者の血圧は正常患者に比べ明らかに低値であった。胃潰瘍疾患の血圧低値傾向は生来の体質によるものと思われる。
●収縮期血圧(最高血圧)が170mmHg以上を示した例では胃潰瘍患者はなく、100mmHg以下を示した例では80%に胃潰瘍が発見された。つまり、収縮期血圧が低いほど胃潰瘍ができやすいことが認められた。
●降圧剤を服用している60歳代と70歳代の高齢者で、降圧の程度と胃潰瘍の有無の関係をみると、降圧の程度が大きい患者で胃潰瘍が認められ、降圧の程度が小さい患者では胃潰瘍は認められなかった。つまり降圧剤服用によって血圧が下がりすぎることが、胃潰瘍発生の誘因となることが判明した。
●高血圧予防として減塩療法が全国的に普及しているが、昭和60年度の国民栄養調査に基づく資料で、食塩摂取量と消化器系疾患有病率の関係を検討すると、食塩摂取量の減少にともなって消化器系疾患有病率が増加していることが判明した。さらに昭和50年から59年の10年間における検討でも、食塩摂取量が減少するにともなって胃・十二指腸潰瘍有病率は増加傾向を示している。
以上の研究から、水野先生らのグループは胃潰瘍予防の面から、高血圧患者の降圧療法では、血圧の下げすぎに注意すること、また、過剰な減塩指導は勧められず、厚生省栄養審議会が勧める塩分摂取目標値(1日10g以下)は再検討を要する、と提言しています(出典:『日本医事新報』No.3358:25-30、1980年)。
※2021年現在、厚生労働省が推奨する健康な日本人の成人男女が当面目標とすべき1日の食塩摂取量は、各々7.5g未満と6.5g未満となっている。
(財)光線研究所「可視総合光線療法・理論と治験」黒田一明著